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リアリズムとは

リアリズムは、当初は理論というよりは、哲学として存在したと言えます。その歴史は古く、紀元前のトゥキディデスや孫子まで遡ることができます。国際関係論の古典的リアリズム、ネオリアリズム、新古典的リアリズムはその哲学的伝統を受け継ぎ、今に至るわけです。

あ らゆるリアリズムにはいくつかの共通点があります。例えば、人の本質に対する悲観的な見方、平和な国際秩序への懐疑的な見方、倫理や道徳は権力や物理的利 益が生み出すものにすぎないという認識・・などが共通点として挙げられます。ここではリアリズムの最も重要な原則を四つ紹介します。

 

【集団主義(Groupism)】

人 は個々としては生存することはできませんが、外部の敵から守ってくれる集団に所属することで生存が可能となります。例えば、私たちの祖先は、最初は小さな 集落を形成し、今日では国家という集団を形成しています。全てのリアリズムがこの集団を中心とする考えを持っています。

【自己中心主義(Egoism)】
個人及び集団は政治的に行動する際には、自己利益に基づいて行動するという考えをリアリズムは有しています。この自己中心主義は人の本質であるとリアリズムは主張します。

 

【無秩序(Anarchy)】

世界には中央政府である世界政府が存在しないため、不透明で不確実な世界を作りだしているとリアリズムは考えます。したがって、外部の敵から守ってくれる集団の重要性がより重要となる政治構造だと主張します。

 

【権力闘争(パワーポリティクス)】

リ アリズムは、無秩序下における、集団主義と自己中心主義の相互作用が世界に権力闘争を作り出していると考えます。無秩序であることから、明日何が起こるか 分からない不確実な状況ですので、まず個人は集団に属して身を守る必要があります。これより多くの集団が生まれます。さらに、集団は自己中心主義であるこ とから、何よりも自らの目的を達成することを最優先に考えます。このため、パワー(権力や軍事力)は全ての集団にとって、目的を達成するために必要不可欠 なものと考えます。ここでの目的は相手を支配すること、もしくは自己防衛のどちらかです。全ての集団が同じような考えを持つことから、世界にはパワーを強 化することを競い合う世界が生まれるというわけです。

 

こ の四つの原則は、リアリストと呼ばれる哲学者、政治家、歴史家、軍事戦略家等の全ての人に通じるものです。リアリストに入る有名人といえば、マキャベリ、 ホッブス、ルソー、アレクサンダー・ハミルトン、クラウゼヴィッツ、マックス・ウェーバー、レイモンド・アロン、ウィンストン・チャーチル、モーゲン ソー、ジョージ・ケナン、ラインホルド・ニーバー、ケネス・ウォルツ、ミヤシャイマー、ロバート・ジャービス等です。

さて、国際関係論で有名な古典的リアリズムとかネオリアリズムという用語は、実はそれほど古いものではありません。リチャード・アシュレーがウォルツと初期のリアリストを明確に区別して以来、この用語が使われるようになりました。1984年のThe Poverty of Neorealismという論文がその始まりだそうです。

し たがって、古典的リアリズムには定まった定義があるわけでは無いのです。古典的リアリストはこの4つの原則は共通した考えとして持っていますが、例えば、 戦争の原因を説明する際に、ある古典的リアリストは、人の本質たる自己中心主義こそが戦争の原因だと主張しますし、他の古典的リアリストは無秩序こそが戦 争の原因だと主張します。
つまり、古典的リアリストは4つの原則を共有するものの、どれが重要かという考えが皆それぞれ違っているのです。

さて、このバラバラな古典的リアリストの考えを一つの理論にしようとしたのが、ハンス・モーゲンソーです。このため、国際関係を少しでも齧ったことがある人は、古典的リアリストといえば、モーゲンソーを挙げる方が多いです。

モー ゲンソーの試みは素晴らしく評価も高いのですが、他方で、モーゲンソーのこの試みは失敗したと認識されています。理由は彼の理論には曖昧で一貫性に欠けて いる部分が多いからです。例えば、「国益」「勢力均衡」のような主要概念が彼の著書「国際政治-権力と平和」には多く出てくるのですが、文脈によって意味 が矛盾していたりします。

そこで登場するのが、ネオリアリズムの創始者ケネス・ウォルツです。次にネオリアリズムについて説明していきたいと思います。