share-knowledge’s diary

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トゥキディデスの罠(The Thucydides Trap)

トゥキディデスの罠(The Thucydides Trap)はハーバード大学のグラハム・アリソン(Graham Allison)教授の造語であり、新興国家の台頭により、覇権国家との間で戦争が起こりうる可能性を、トゥキディデスという古代ギリシャの歴史家の名前を用いて造ったものです。トゥキディデスは古代ギリシャにおけるアテネの台頭が当時支配的な国家であったスパルタとの間に緊張関係を生みだし戦争に至ったとしています。これは第一次世界大戦前のドイツと英国との関係にも似たものがあります。アリソン教授は過去500年間に同様の事例を研究し、16例のうち12例が戦争に至ったと結論を出しています。また、戦争を避けられた事例でも、痛みの伴う調整が必要であったとしています。なお、16例の結果は以下の通りです。

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(参考)The Thucydides Trapより

トゥキディデスが示すところ、古代ギリシャにおいてアテネが政治・経済・文化的に成長するにつれ、より大きな影響力や発言力を求めることとなります。その一方で、当時の支配的国家であったスパルタは恐怖、安全保障の不安定を感じ、現状維持を求めていきます。両国はお互いに相容れず、最終的にペネポネオス戦争に至ります。アリソン教授は第一次世界大戦前のドイツと英国の関係についても述べています。第一次世界大戦を率いたドイツ皇帝ウィルヘルム2世と英国王ジョージ5世は従兄弟同士でした。ドイツ皇帝ウィルヘルム2世は英国で長い時間を過ごし、ドイツの次に英国を想っているとの発言もしています。そのような関係から、当時は誰も両国で戦争に至るとは想像していなかったようです。その一方で、当時のドイツは海軍力を強化しており、のちにキッシンジャーは、ドイツがどのような意図があろうが、英国にとっては客観的な脅威であり、大英帝国との両立はできなかっただろうと述べています。これが意味するところは、文化、血縁、経済の相互依存は戦争を防止するうえで十分な要因ではないということです。

現在、中国は目覚ましい勢いで台頭していますが、これは米国が今まで主導してきた国際秩序に多大な影響を与えつつあります。中国が米国主導の国際秩序をそのまま受け入れるかどうかについて、元シンガポール首相のリークアンユーは、中国は中国でありたいわけであり、西欧諸国のメンバーになるようなことは受け入れられないであろうと述べています。すでに中国は米国主導の国際秩序に反する形で行動してきており、米国と中国はトゥキディデスの罠の状況に陥りつつある状況なのかもしれません。なお、アリソン教授は、より頻繁な両国首脳による会議の開催等により、両国関係を管理する必要性を説いています。

 (参考)The Thucydides Trap: Are the U.S. and China Headed for War?, The Atlantic