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(読書メモ)中国はなぜ軍拡を続けるのか

阿南東北大大学院教授の著書で、中国共産党と中国社会の関係を丁寧に描いており、非常に読み応えがあります。以下が概要です。

中国共産党は、そもそも格差是正を掲げて成立した政党であり、中国全土の土地、資源、工場、企業、インフラを接収し、計画経済で平等性の高い社会を構築することとしていました。しかし、毛沢東の個人独裁によりもたらされた大躍進運動と文化大革命により、共産党の党勢は弱体化します。

 このため、鄧小平は一党支配体制を立て直すため、「改革開放」を導入して、資本主義諸国との貿易推進を図ります。しかし、改革開放の結果、共産党員に富が集中し、経済格差が拡がります。このため、胡耀邦と趙紫陽は共産党に富が集中しない制度(党と企業の分離)を実現しようとしますが、天安門事件を経て、計画は失敗し、経済格差の是正は実現できずに終わります。

 その後、江沢民が国家主席となりますが、共産党の抱える経済格差という矛盾した問題に手を付けず、愛国主義教育を展開するなどの排外的ナショナリズムを高揚させ、軍拡路線を始めます。江沢民は行政経験も不足し軍歴もない人物であり、中国には国防を担う官僚もいなかったことから、江沢民の人民解放軍に対する影響は強くはありませんでした。この結果、江沢民は人民解放軍を政権側に引き留める措置として、軍上層部を既得権益側へ招きいれ軍拡を進めることとなります。このような背景もあり、江沢民以降の文民指導者と中国人民解放軍との関係は、共生やギブ&テイクの関係と言われます。

 江沢民の後の胡錦涛は、富の再分配を目指し、国内の既得権益層に攻勢を仕掛けるととともに、対外協調路線をとります。国内の経済格差の責任を歴史に絡めて日米欧の責任に転嫁するのではなく、協調による実益の拡大を図り、社会保障改革等を進めました。しかし、江沢民をはじめとする既得権益層からの批判やリーマンショックもあり、富の再分配はうまくいきませんでした。

 そして、後継者争いでは、江沢民の既得権益層との争いに負け、江沢民派の習近平が国家主席となります。習近平は、反腐敗を掲げつつも、既得権益構造を維持したままであり、中国の夢といった排外的ナショナリズムや個人独裁へ回帰しているように思われます。

 表題の「中国はなぜ軍拡を続けるのか」との問いに対しては、作中、筆者は、共産党が暴力に依存する形で中国国内の民主化要求を抑え、民主化要求に共鳴して内政干渉をしかけてくる可能性のある西側諸国を牽制し、軍事力を誇示することで「中国民族の偉大な復興」を演出用としているとしております。

 また、日米欧による対中政策については、天安門事件後の経済制裁解除により、既得権益層を残し、民主化勢力の弱体化を決定的にしてしまったと評価しています。確かに、当時は中国は西側諸国に依存するなかで、西側諸国の規範を受け入れていくという楽観的な思惑があったように思われますが、その思惑は外れ、結局は共産党を延命させることとなりました。

既得権益構造を改革するという点からは、現在、トランプ大統領が仕掛けている経済戦争は、トランプ大統領の思惑は違うかもしれませんが、中国の既得権益構造にメスを入れることになるかもしれません。